●絵金のこと●
田村 謎の絵師、絵金(弘瀬洞意)
 蝋燭の炎にぼうっと浮かぶ泥絵の具。血の海に沈む女、転がる首、臓物、人魂、幽鬼、阿鼻叫喚、凄惨、狂乱…。土佐の夏祭りに来てみるといい。所によっては今でも絵金の芝居絵が夜の参道を妖しく彩っている。
 謎の絵師、絵金。絵筆が醸し出す圧倒的迫力、そして今に残る作品の多さにもかかわらず、彼は百年もの間正当な評価を受けることがなかった。おかげで数々の謎に覆われている。
 どこに住んでいたのか、なぜ異常なほど芝居に詳しいのか、どんな人物だったのか…。
 彼は姓を木下、林、弘瀬と変えている。名前(画号)の方は金蔵を振り出しに洞意、美高、柳栄、雀七。一八一二年、高知市内の貧しい髪結いの家に生まれる。江戸に出て狩野派に学び、帰高後は家老桐間家の絵師職に。苗字帯刀まで許されるが、贋作事件(絵金が描いた狩野探幽の模写を古物商が売ろうとして摘発されたと言われる)に連座してその地位を追われたらしい。
 その後、町絵師として縦横に活躍。晩年は赤岡町に身を置いて創作に励んだと言われている。維新後の明治九年、六十五歳で没。


●絵金作品について●
鎌倉三代記  絵金は数多くの作品を残している。個人が持っている作品も多いし、県内各地の神社等に保存されているケースもある。白描を中心とする作品群は香我美町の「絵金資料館」で見ることができる。
 絵金が晩年を過ごしたとされる赤岡町では毎年七月中旬の土、日二晩に「絵金祭り」が開かれる。夜の道縁にずらりと絵金の絵屏風が並ぶさまは、なんともいえず幻想的。
 また高知市の朝倉神社では七月二十四日の夏祭りに絵屏風を大台にはめて参道に出す。繰り出した人々は台の下をくぐって本殿に足を運ぶ。

 
●絵金年表●
文化9年(1812 1歳) 10月1日に高知城下新市町に髪結いの子として生まれる
文化11年(1814 3歳) 北斎漫画 初編刊

幼少より画才あり
文政12年(1829 18歳) 江戸へ上る。

江戸土佐藩御用絵師前村洞和に入門する
狩野派本格を学ぶ
天保2年(1831 20歳) 北斎「富嶽三十六景」開版
天保3年(1832 21歳) 江戸より帰国し桐間家の御用絵師となり、林洞意と名乗る
天保4年(1833 22歳) 安藤広重「東海道五十三次」開版
天保6年(1835 24歳) 坂本龍馬生まれる
天保〜慶応年間
(年月不明)
狩野探幽の贋作事件を起こし、お抱え絵師の身分を失う。 狩野派破門、林洞意の号を奪われる
城下追放、弘瀬柳栄と名乗る
在方を放浪したとも、上方に上り小屋者として歳月を過ごしたとも言われるがすべて不明
町絵師金蔵(絵金)として町人、農漁民に愛され、僅かな謝礼で風俗画などを多数描く
赤岡に定住し芝居絵を大成する
芝居絵屏風、奉納絵馬など多数制作。庶民の楽しみの場である神社の祭礼時に絵金の絵が展示された
慶応3年(1867 56歳) 大政奉還。坂本龍馬(33歳)暗殺される
明治2年(1869 58歳) このころ高知市蓮池に住み、弘瀬姓を名乗り雀七と改名
妻初菊、嗣子俊三郎とその妻糸竹、長女糸萩、孫千代
明治6年(1873 62歳) 中風を患い、死までの3年間は左手で描く
明治9年(1876 65歳) 3月8日に没す。上田村の本正寺で葬儀
明治12年(1879) 妻初菊死去。「友竹斎夫婦墓」が真宗寺山腹の墓地に建立される


●絵金資料館● 高知県香南市香我美町岸本56 TEL 0887-55-0933
 香我美町岸本の吉川登志之さん方には、芝居絵などの下書きとなる白描(はくびょう)が数多く残されている。このため「絵金の魅力、白描の魅力を広く知ってもらおう」と自宅を改装、「絵金資料館」としてオープンした。
 絵金の孫弟子にあたる父・半蔵さんが絵金の作品、特に白描にほれ込み、生涯をかけて集めた三百点ほどを所蔵している。白描は、芝居絵のデッサンや弟子たちのための手本、花鳥風月などが墨線の濃淡だけで描かれており、鮮烈な泥絵の具を使ったびょうぶ絵とは一味違った趣。
 室内は古い日本家屋の良さをそのまま生かし、柱と柱の間の白壁や障子の上に配したパネルの上に一点ずつ展示。ほのかな明かりに照らされた作品群が独特の雰囲気を醸し出している。
入場料 無料
高知市はりまや橋より車で約30分、高知空港より約10分。
絵金資料館へぜひどうぞ!

●絵金資料館収蔵白描画●(絵金資料館のご協力により、随時掛け替えいたします)

「蝶花形名花島台」小坂部音近と娘
「蝶花形名花島台」
小坂部音近と娘
小坂部音近は長宗我部元親のこと。元親がかわった事件は多く、従って絵金の中にも数多く出てくる1人である。
一つ目小僧
一つ目小僧
紙本墨画 48.5×36.9センチ
木下陰挾間合戦 石川五右衛門
木下陰挾間合戦
石川五右衛門
156×156センチ
布袋
布袋
紙本墨画 47.3×32.8センチ
中国五代の頃の僧。日用品を袋につめ枕でかつぎ市中を回ったので布袋和尚と呼ばれた。
弥勒菩薩の化身で日本では七福神の一人として知られる。


●絵金蔵(えきんぐら)● 高知県香南市赤岡町538 TEL 0887-57-7117
 幕末の土佐が生んだ異端の絵師金蔵。通称「絵金」の屏風絵は極彩色の泥絵で描かれ、中でも力強く激しい赤色の鮮烈さは鬼気迫るものがあり見る者を圧倒します。
 絵金蔵は、絵金屏風絵と関係資料を収集・展示するもので、宵闇の中に浮かび上がる屏風絵をイメージした展示室「闇と絵金」、収蔵庫の壁にガラス張りの丸窓を設け、中を覗くと本物の屏風絵をのぞき見ることが出来る「蔵の穴」(定期的な入れ替えで常時2枚を展示)、絵金の謎に包まれた生涯を追う資料室「絵金百話」の3つの展示コーナーと映像ホールからなっており、絵金の屏風絵と実像に迫ることが出来ます。
 
絵金蔵

・開館時間 9:00〜17:00(入館は16:30迄)
・閲覧料 大人500円(450円)、高校生300円(250円)、小・中学生150円(100円)
( )内は15人以上の団体料金
・休館日 毎週月曜日 (月曜日が祝日の場合は火曜日休館)
・場所 香南市赤岡町538
・TEL/FAX 0887-57-7117